恵方巻と鮟鱇(あんこう)

恵方巻と鮟鱇(あんこう)

2月3日の夜、一人私は縁起の良い方角の恵方に向け大きな口をあけ無言で太巻きを頬張る。まるで静かな海底で小魚やエビを喰うが如く…。 この時期、豪華な恵方巻と同じくらいの楽しみが、数年前からポツポツと伊勢湾のしかも津の前浜で穫れるようになった恰幅のよい大きな鮟鱇(あんこう)。塩分濃度の少し薄い、甘みの強い津のエビやイワシなどを大量に食した鮟鱇はこの上なくジューシー。「捨てるところがない」と言われ、皮・エラ・肝・胃袋・卵巣・そして身とどれも美味しく、鮟鱇の七つ道具と言われる。...
愛のスピリッツ

愛のスピリッツ

木枯らし一号が吹いた10月末、クレー射撃を終えた二人が立ち寄ってくれた。普通に見ればシャレたオヤジと可愛い娘さんの仲良し親子であるが、オレンジ色の鎧をまとうと師弟へと変わる。師であり父の古田さんは日本一のプロハンターであり匠の業を駆使する罠師である。 ミュゼで看板メニューの鹿や猪などの山の恵みや、日本最高水準と言われるみえジビエもこの方なくしてブレンド化はあり得なかった。 そんな古田さんが猟師一家三代目の魂を22歳の愛娘に伝える。 11月15日(火)、羽子板のお人形のような愛ちゃんが、獣道のように険しいハンターの道を歩みだした。...
幸さんの菊の花茶とダルマ

幸さんの菊の花茶とダルマ

10月の朝、買い出しの荷物を車から降ろす際に甘く漂う金木犀(きんもくせい)の花の香り。私にとってこの黄々とした香りが、本格的な褐色の季節の訪れを教えてくれる合図。そして花は記憶をつなげる。 子供のころ、花作りの名人であった祖父の堂々たる菊たちは街の名物であった。神宮にも並べられる三本仕立ての立派な菊より、私が好きだったのは「ダルマ」と言われる40センチ程の背の低い一本仕立て。祖父の作るダルマはかなり花も大きく香りも強い、黄色い物はまるで獅子のよう。 そんなダルマを今は家族で見ることはない。...
フランスにはない夏ジビエ

フランスにはない夏ジビエ

「生後3ヶ月 雌の子鹿のローストです」。 ミュゼにおいては毎日耳にするフレーズだが、本場フランスにはない。元々狩猟民族であるフランスでは厳しく猟期が定められており、ジビエは冬のご馳走である。 肉質は血を体に回した野性味のある肉に、たっぷりの洋酒やスパイスを使い複雑に仕立てた皿に、濃い赤ワインを合わすのが本場のスタイル。 そんな中、日本においては近年爆発的に増えた鹿や猪を1年中駆除し、厳しいルールを設け、山の恵として全国的に工夫がされている。...
森の妖精 津の天然茸 ポルチーニ編

森の妖精 津の天然茸 ポルチーニ編

7月に入って雨の日から2日後の朝、高い湿度の中車を走らせ森へと向かう。途中の野池でテールウォークする魚を見るが本日のお目当ては君ではない。 様々な自然界の刺客を気にしながら奥へと進む。心のアンテナを張り巡らし、欲望マシーンと化した私がやっけになって探すのは、ヤマドリタケモドキ。俗に言うポルチーニ茸、フランスではセップと言う。 実は三重県は茸にとってよい気候で、マイタケや天然では幻と言われるハナビラタケも近くのポイントであがる。ちなみに私は見たことがないトリュフまであがるという。...